君のまなざし

妻が亡くなる前、時折、私の部屋を覗きにきて、何も言わず

戻っていった。

寝る前は私の部屋にきて、

「もう寝るね」って言って

自分の部屋に行った。

その瞬間お互いに視線を合わせて

いた事を思い出す。


買い物に行った、私がカートを

押し、妻がカゴに物をいれる。


「ちょっと探し物してくるから」

と、私が妻から離れる。

妻のところへ戻る、その瞬間

視線が合う。


パチンコをしていた、私の近くで

妻もやっていた、視線が合う。

離れたところに妻がいた、

妻を目でさがす、妻と視線が

合う。

何気ない日常生活、そのなかでも

何度も視線を合わせていた。


今思えば、それがお互いの存在の

確認行為。

そのまなざしには命が込められて

いたんだ。

お互いがお互いを気にかけている。

お互いに見失わないように。

お互いのまなざしは、

お互いを結びつけている行為だった。

そうなんだ、離れてはならない

ものなのだ。

それが、まなざしとなって

相手を探す。


もう、それができない。


今までは見る事を避けていた携帯の画像。

会えない妻を見るのが辛くて。


今…その、画像を見た。

懐かしい妻の姿。

涙がでる。

悲しいドラマでも観てたのか、

涙目の妻の写真。

その画像を見た瞬間から

「会いたいよ宮ちゃん」

涙が止まらない。

妻が、ガラ系からスマホに変える前の携帯は妻が亡くなる2ヵ月前まで使っていた。

そのなかの画像には、私が妻の

苦手な細部の掃除をする私の

後ろ姿が撮られていた。

その頃私は、食が細いと言うか

油を使っている食べ物はほとんど

食べられなかったから、

「俺は、宮ちゃんより早く死ぬよな」って言ってたから、きっと

撮っていたんだろう。


今私は苦しさからは遠ざかって

いるが、哀しみからは逃れ

られはしない。


「この世は一瞬、だから頑張って」と言ってくれて

ありがとう…宮ちゃん。